虎ときどき牛(奥の間)@はてな

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延吉留学日記・第三週(2)

20100808 日曜日 曇りのち雨

ホームステイ先では、本来は娘さんの部屋となっているらしき場所を占拠して寝させていただいた。朝は6時前に目が覚めたが、(大学の先生である奥さんも含めて)みな夏休みなので、まだ誰も起きていないらしい。もうしっかり眠った後ということで、寝直すのも退屈だったから、家の間取り図を描いてみた。
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家は5階建てマンションの最上階で、図の上側が玄関。私が泊まったのは、いちばん左下の部屋である。右下の部屋は娘さんたちが寝ていた部屋なので、何も見ていない。図はまったくの目測だが、私の泊まった部屋が、日本で言えばだいたい6畳くらいの広さになると思う。だから、居間のスペースがわりに広い。そして、浴室がなくてシャワーのみであり、洗面台もない。また、台所にキムチ冷蔵庫がないことがひそかに気になったので、夕食時に「冬にはキムチをご自宅で漬けるのですか?」と尋ねたところ、「いいえ、買ってきて食べます」との答えであった。そう答えられた後の対応を考えずに質問してしまったので、一瞬とまどってしまったが、「いやあ、キムチを漬けるのは大変ですよね、私も興味を持って一度漬けてみたのですが、失敗して塩辛くなりすぎてしまいましたよ」と、苦し紛れにごまかしておいた(<ごまかせてない……?)。

間取り図を描いては消し、修正を加えているうちに、奥さんが起きて食事の準備を始められた様子。しばらく間を置いて部屋を出て、朝のご挨拶をしてからトイレをお借りしたが、旦那さんがまだお休みなので部屋に戻る。8時頃、食事の準備が整ったとのことで改めて部屋を出た。

朝食はキムパプ(のりまき)。もちろん、ゆうべ感動したあの米である。おいしくないはずがない。こんなにうまいキムパプは初めてだ、と無口でモコモコと食って、一気に腹がふくれてしまった。そのため、少し遅れて食卓に来られた奥さんは、「キムパプはあまりお好きではなかったようですね……」とおっしゃる。大いに誤解なのだが、残念ながらその事情をうまく説明できなかった(ご飯が非常においしいのでご飯ばかり食べてしまう、という話は、昨日の夕食の時にしたのだが)。
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朝食後、いとこの娘さんの夏休みの宿題と教科書を少し見せてもらう。この娘さんは日本で言えば中二に相当する八年級の学生なのだが、小学校では漢族学校に通っていたので、朝鮮語を話すことはできても、正しく書くことができないのだとか。そこで、いま通っている朝鮮族学校の中学校では、小学校三年生の朝鮮語の教材を使って書き方を習っているところだ、という。大学入試で朝鮮語を用いている大学がほとんどないので(延辺大学だけかな?)、進学しようと思ったら漢族学校の方が有利に働く。そうした状況の中で、子どもを漢族学校に通わせたいと思う親が出てくるのは仕方ないことだろう。しかし、母語での読み書きが十分にできない(のに、第二言語では十分に読み書き能力がついている)という状態は、親世代とのコミュニケーションの点においても問題が起こりえるように思う。少し複雑な気分だ。

そうしている間にも、部屋では衛星放送で韓国の番組が流れている。家族は皆、それらを自然に受け入れていて、中国の放送はチャンネルこそ多いがつまらないから見ない、という状態らしい。だから、この場にいる二人の娘さんは、どちらも韓国の芸能人に非常に詳しい。なるほど、これは韓国に、ソウルにあこがれて育って行くのかもしれないな、と感じた。だが、おそらく大人になるにしたがって、中国朝鮮族が韓国ではしばしば蔑視の対象になっていることを知っていくだろう(たとえば、TVドラマにおける中国朝鮮族の描かれ方はひどいものだ、などと聞く)。そして日本では、中国朝鮮族の存在すらまともに知られていない状態だ。中国国内でも、結局のところ漢族優位の構造は揺るがない。いまは韓国に親近感を抱いているらしい彼女たちは、これからどのように育っていくのだろうか。そう思いながら、また少し複雑な気分になった。

9時になり、家をおいとますることになった。車で延大まで送っていただく。人民公園の裏側を通って延大の東口から入るルートでやって来たので、近かった。それにしても、ほんの短い時間ではあったが、本当にお世話になったし、貴重な体験をさせていただいたと思う。日本に戻ったら、手紙の一本でも書くことにしよう。

寄宿舎の部屋には、9時半には到着した。まずは3日分の洗濯をする。洗濯の間に荷物を整理したのだが、どうしたわけか、長白山に出かけるときに受け取った学生証が見あたらない。ホテルかどこかで紛失してしまったようだ。それを探しているうちに、洗濯物が洗い上がった。結局見つからないので、明日にでも留学生管理課に出向くことにする。

洗濯物を干し、部屋を片づけていると、昼食の時間である。MTくん・KDくんという隣室の二人組と一緒に食べる。
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KDくんは先生の家でめちゃくちゃおいしいメシを食って、朝からコーヒーを飲んで優雅に過ごしてきたらしい。だが、朝市に出かけて犬をさばいている現場を目撃してしまったのがショックで、あとからこたえてきている、とのこと。彼はむかし犬を飼っていたことがあると言うから、それはさぞかしショックであろう。犬料理、おいしいんだけどね。

食後は、昨夜浴びることのできなかったシャワーを浴び(当地では、毎日入浴する習慣がないらしい)、さっぱりとしたところで、買い物に出かけることにした。しかし、延大の正門の所に来てみると、掲示板が出ている。そういえばさっきの昼食時に、MTくんが「今日は延辺大学の入学手続きやってるみたいですよ」と教えてくれたのであった。

こちらの入学手続きはどんな雰囲気なのか。せっかくの機会なので(<こればっかりである)、のぞきに行ってみることにした。入学手続きは、学生寄宿舎のすぐ近くの建物で行われていた。しかし、手続きをしている建物には入りづらい雰囲気だったので、それは外から眺めるだけにして、隣にある中国人学生向けの食堂に入ってみた。営業はしていなかったのだが、雰囲気だけでもみてみたかった。食堂フロアは二つあり、非常に広い。カフェテリアになっていて、料理も中国各地のものがあって種類が多い。もちろん朝鮮族の料理もある。一度食べてみたいのだが、決済に使うカードを買わねばならないらしく、ちょっと難しそうだ。

延辺大学は基本的に全寮制らしく、食堂の近くには12の寄宿舎棟が並んでいる。そして、そこに入るであろう新入生とその家族が、大きな荷物を抱えてあちこちに移動していた。なんだか初々しい。そういえば私自身も、高校を出て大学に入るときには、母親とともに入学手続きをしたのであった。その記憶がおぼろげによみがえってきた。

このあたりを見ているうちに、雨が降ってきた。傘を使わないでは歩けない状態だ。洗濯をしているときには悪い天気ではなかったのだが、出かけるときになんとなく必要そうな気がして傘を持ち出していたので、助かった。ところどころぬかるんだ坂道を下って、大通りに出て行く。その途中に、ちょっと古めかしい標語が壁に残る建物があった。「計画出産は、あなたにかかっている、私にかかっている、彼にかかっている」という、いわゆる《ひとりっ子政策》の標語だ(ほかにも、同じ色・同じ字体で、あと三つの標語が書かれてあった)。
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大学前の公園路に出て、東に向けて歩いていくと、よく行くスーパーの前には、新入生歓迎のゲートがかかっていた。延大正門前のバス停からバスに乗る。相変わらずコーヒーフィルターを探しに、今度は少し離れたショッピングモールに出かけてみることにした。39路というバスに乗って、延吉橋の南にある「河南国貿」というモールに着いた。少し遠回りをする路線なので、20分くらいは乗っていたかもしれない。けれどたったの1元でここまで来れるのだから、文句はない。

モールの中のスーパーに入る。地下1階と地上1階の半分程度がスーパーになっており、これまで見た延吉のスーパーでは、最も大きい。期待をしながら見て回ったのだが、やはりコーヒー豆もフィルターも見つからなかった。日本語のネット通販で購入することもできるようなのだが、それも面倒なので、コーヒーについてはもうあきらめることにした。飲み尽くしたらインスタントでも仕方ない。

店内をぐるっと見て回り、食器類をいくつか買った。ひとつは、長白山からの帰りに買った蜂蜜を山分けするための容器。密閉できて丈夫な、しかも安いものとなると、意外に選択肢が少なかったのだが、何とか見つけ出した。それからもうひとつは、ステンレスの椀。この椀は二重構造で中空になっていて、見た目のわりに非常に軽いし、中に熱いものを入れても手で持つことができるものだ。学食でこの椀を使って汁を飲んでいるうちに、自分用にもほしくなっていたので、土産に購入した。小さいものはカレーか何かに使えそうだ(写真は、持ち帰って洗って乾かしている状態)。
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買い物を終えて、建物を一回りした後、外に出てみると、雨が激しくなっていた。来たときとは違う路線のバスで延大に帰ろうと思ったが、うまく見つけ出せなかったので、結局は同じ39路で引き返した。だいたい16時半頃に帰着。買ってきた食器を取り出して洗ったりしているうちに、夕食の時間になったので、例によって食堂で夕食だ。なぜか気分が落ち着く。
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夕食後は、たまっていた日記をつける。いろいろあった週末なので、なかなか書き終わらない。4時間ほどもかけてようやく書き終えた。少し休んだら、授業の予復習をして寝ることにしよう。