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延吉留学日記・第五週(4):終

20100824 火曜日 曇り

朝は8時前に目を覚ます。今日は金浦空港を16時前に出る飛行機で日本に帰る。時間は比較的余裕があるので、朝から急ぐ必要もない。ゆっくり支度をする。

しかし今日の予定は、上司への土産を買う以外には何も決めていなかった。候補は二つ、二村(イチョン)にある国立中央博物館に行くか、果川(クワチョン)の競馬公園の近くにあるらしい国立現代美術館に行くか。後者には行ったことがないので行きたいのだが、この美術館がある果川市は、ソウルの南隣の街である。泊まっている場所がソウル中心部でも北寄りの鍾閣(チョンガク)駅の近くなので、この美術館まで行こうと思うとソウル市を縦断する必要があり、時間がかかってしまう。そこで、今回は中央博物館に行くことにした。

9時半頃に宿を出て、鍾路(チョンノ)という大通りを歩く。適当に屋台で何か買ってつまもうか、と思っていたのだが、出勤時間を過ぎていたので屋台も減っており、何も見つからないうちに鍾閣駅に到着。地下鉄1号線に乗り、ソウル駅で4号線に乗り換えて、二村駅で降りる。そこから15分ほど歩くと、博物館に着く。今回の目当ては、つい最近オープンしたらしい朝鮮室(=李氏朝鮮王朝時代を扱った展示室)と、前に見ることができなかった工芸室・陶磁室である。
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1階の朝鮮室は5室あり、それらを順に見ていくことによって、14世紀末の王朝成立から、20世紀初頭(いまからちょうど100年前)の韓国併合までの歴史を概観することができるようになっている。オープンしたばかりの展示室ということで、内容はまだまだ充実させていく余地がありそうだ。しかし、もともと旧朝鮮総督府の建物を使っていたこの博物館が、建物の撤去に伴って現在地に移転してから5年、これでようやく、この博物館のメイン展示が古朝鮮から近代までつながってきたわけである。今後の博物館のさらなる成長が楽しみである。

朝鮮室を出て、次は3階に上がる。仏教美術金属工芸青磁、粉青沙器(<日本でいうところの「三島」などの陶磁器)、白磁という5つの展示室を順に見て回る。仏教美術室では、日本の京都・太秦にある広隆寺の半跏思惟像と酷似していることでも有名な、金銅の半跏思惟像が特別室を設けて展示されていた。1993年に初めて韓国を訪れたときに見て以来だから、17年ぶりだ。やはり美しい仏像だ(ちなみにこの博物館では、フラッシュや三脚を使わなければ、写真撮影は禁止されていない)。
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のんびりしているうちに時間が少なくなってきたので、最後は少々駆け足だった。それにしても朝鮮の民画や白磁の絵付けに出てくる魚は、とてもユーモラスで味があるし、なによりおいしそうに描かれている。数々の絵のモチーフの中でも、朝鮮では魚がもっとも秀逸だと思う。
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最後にミュージアムショップに立ち寄って、少しだけ土産物を買い、博物館を後にした。もう12時を回っているので、上司への土産物を買いに行かないと間に合わない。再び二村駅に戻り、4号線で漢江を渡って、次の銅雀(トンジャク)駅で9号線に乗り換える。そして3つ目の高速ターミナル駅で下車。ここはソウル市内でも有数のショッピングスポットである。前回の韓国訪問時に、ここのデパ地下で買った菓子がおいしかったので、それを上司への土産物にすることにしたわけだ。

脇目もふらずにデパ地下に向かって菓子を3箱買い求め、もう一度9号線に戻る。この9号線には、高速ターミナル駅金浦空港を結ぶ急行列車が走っているので、今回はそれに乗ってみることにした。10分ほど待ってやって来た急行列車に乗ると、座席はすでにほぼ埋まっていた。扉の横に立って乗っていったのだが、列車は30分ほどで金浦空港駅に到着。バスなら1時間ほどかかる(昼間は渋滞でもっとかかることもある)場所だから、これは非常に快適だ。今後も使ってみたいと思う列車だった。

けっきょく昼食抜きで金浦空港に到着。飛行機に乗れば機内食もあることだし、昼食はラウンジで簡単に何か食べる程度でよいか、と考えた。預けていたスーツケースを受け取り、荷物を整えて、搭乗手続きを済ませる。昨日本を10kgほど抜き出して送ったにもかかわらず、ほかのバッグの荷物をさらに詰め込んだりしたので、スーツケースの重さは34kgもあった。もう一つ預けたバッグがたぶん10kgくらいはあるだろうから、今日は45kgほども預けたことになる。うーん。

手続きを済ませて、ラウンジへ。金浦空港のラウンジは、出国審査よりも手前にある(だから、搭乗時刻ギリギリまで粘ることはできない)。窓際の席に座って外を見ていると、ターミナルビルの増築工事をやっていた。ちょうどコンクリートを流し込む作業をしているところだ。もちろん、ちゃんとした機械を使ってやっている。先日の私たちのような手作業なんかではやっていない。やっぱ土木工事ってこうよなあ、と思いながら眺めた。

ラウンジではおきまりのカップ辛ラーメンとタンムジ(韓国版たくわん)、ついでにサンドウィッチとカステラとカフェラテ、という強引な昼食。この際、それぞれがそこそこにおいしければ、組み合わせは何でもよいのである。
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それらを食べ終えて、PCを取り出して作業する。昨日の日記をブログにアップしようとするが、5000字というヤフブロの字数制限をオーバーしていて書き込めない。しゃあない、再編集するか、と思っているうちにバッテリーが音を上げる。なにぶん6年も使っているマシンなので、もうバッテリーがダメダメなのである。ACアダプタはあるものの、韓国のプラグに差し込むためのアダプタは、あいにく先ほど預けたバッグの中に入れてしまっていた。というわけで、ブログの更新もできずに作業を終了。30分ほど、ぼーっと窓の外を眺めて過ごす。

その後、保安検査や出国審査を経て搭乗口へ。延吉空港とは比較にならないほどのスムーズさだ。搭乗口前で30分ほど待って、機内に入る。隣には日本人のバックパッカー男性、前には韓国人の髪の長いオバチャン。離陸すると、このオバチャンが目一杯座席を倒してくるので、狭くて仕方ない。しかし、機内食の時にアテンダントのお姉さんがオバチャンに注意してくれたので、ようやく人並みのスペースを確保することができた。この金浦~羽田便の機内食は、これまで何度も食べてきたものだが、不思議と懐かしい気がする。
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いつものようにロールパンをナイフで開き、コチュジャンを塗りたくって、おかずを挟んで食べる。韓国人もやらないと思われる、およそ行儀のよろしくない食べ方だが、これが妙にビールに合ってうまいのである。いつぞやなどは、隣に座っていた日本人のお姉ちゃんにひそひそと指差されてしまったこともあるのだが。

んで、機内食の片づけが終わると、オバチャンは再びシートを倒してくる。腹が立ったので、「あのねえ、あんまり後ろにもたれて来ないでくださいよ」と言ってやった。何か言われたらもっと言ってやるつもりで文句もいくつか考えていたが、それには至らず、オバチャンは黙ってシートを起こした。それにしても「すみません」くらい言ったらどうなんだ。なめとんのか、このオバハンは。

などといったことがあるうちに、遠くに富士山が見えてきた。下は一面に雲が広がっていて、地面はまったく見えない。南アルプスなどの山は入道雲に覆われているのだが、富士山だけはぽかっと顔を出していた。1ヶ月ぶりの富士山だ、懐かしい。
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そして飛行機は18時過ぎに羽田空港に着陸。たまたま滑走路から到着ゲートまでの距離が非常に近く、さらに飛行機を降りた後も、混雑し始める前に窓口をすべて通過できたので、19時10分頃には品川駅に着くことができた。国際線の帰りとしてはかなり早い。しかし新幹線の接続が悪く、自宅に着いたのは21時前だった。

それにしても、日本は蒸し暑い。からっと涼しい延吉から来たところなので、ムシムシして汗が止まらない。ところが、羽田に着陸して、国際線ターミナルから移動するバスの中で耳にした最初の世間話が、「最近涼しくなりましたねえ」「そうですねえ、秋みたいですね」というものだったのである。参った。もう東京以西の日本は亜熱帯認定でいいんじゃないか、と思った。

(終)